
IPPFは安全で合法的な人工妊娠中絶サービスを推進するために活動し、選択の自由のために政策提言を行います。この活動は、出産を決断する女性の権利の支持と、安全でない人工妊娠中絶がもたらす悲惨な結果の撲滅に向けた誠実なコミットメントに基づいています。
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米最高裁がロー対ウェイド判決を覆す~女性の健康と権利に大打撃~
※この記事は翻訳です。英語はこちら 米国の最高裁は、1973年のロー対ウェイド判決を覆し、50年間、全米で連邦法の下に認められていた人工妊娠中絶の権利が保障されなくなりました。 これは、近年の米国史上で女性の健康と権利に対する最大の打撃です。全米で50年も憲法上、保障されていた中絶の権利がなくなったため、今後は各州で中絶が合法かどうか、その範囲を決めていきます。 ミシシッピ、オクラホマ、テキサス、ジョージアなど26州では「トリガー法」を発動しようとしています。最高裁の決定を受けてトリガー法が成立すれば、これらの州では中絶が禁止されるか、厳格に制限され、全米で4,000万人いる生殖可能年齢の女性と少女たちがクリニックで中絶できなくなると言われます。影響は、特に低所得層と有色人種に大きくのしかかります。 今後は中絶を提供する州と禁止する州がパッチワークのように並ぶことになります。安全で合法な中絶を受けるため州外に出る費用がない人と中絶薬を入手できない人たちは、安全でない、法規制の管理も受けない非合法な中絶を受けるしかなくなります。ケアの質は担保されず、アフターケアもなく、中絶を受けて問題が起きても、何の保証もありません。 今回、リプロダクティブ・ライツが破壊的に後退したきっかけは、ドッブズ対ジャクソン・ウィメンズ・ヘルス・オーガナイゼーションの判決 です。2018年、ミシシッピ州が15週を超える妊娠の中絶を禁止したことに対して、最高裁判事9名のうち6名がミシシッピ州法を支持しました。その中で、ロー対ウェイド判決は覆されましたが、4名の最高裁判事は反対でした。 国際家族計画連盟(IPPF)のDr アルバロ・ベルメホ事務局長のコメント 「米最高裁がロー対ウェイド判決を覆したことは、近年の米国史上で女性の健康と権利に対する最大の打撃です。そもそも中絶は、憲法上保障されるべき命を守る保健医療ケアです。今回の決定は許されざる暴挙です」 「このように女性のからだを攻撃し続け、出産までの妊娠継続を強制するのであれば、米国の最高裁は落ちる所まで落ちたと言わざるを得ません。米国の誇りの礎とも言える、何百万人もの人々の自律、自由、からだの自己決定権を奪うのですから」 「中絶を禁止しても中絶数は減らないことはデータから分かっています。中絶が禁止されると女性と妊娠している人たちの死亡が増えます。これは世界中で、もっとも最近はポーランドで起きました。合法で安全な中絶(中絶薬を含む)を受けられないなら、人々は非合法で安全でない中絶に頼るしかありません。そうなれば、心身に深刻な害が及ぶか、ひどければ死に至ることさえあります。この状態が今後、何十年も続くことになるのです」 「今回の動きは世界中に波及し、反中絶派、反女性派、反ジェンダー平等運動が活発化し、生殖に関する様々な自由が制限されるでしょう。米国の理想、過去の判例、そして法よりも個人の信条を優先した最高裁判事たちは、すぐに自分たちの手が血まみれになります。この残酷な裁定によって苦難を強いられる何百万もの人々を思い、私たちは絶望しています」 ロー対ウェイド判決が覆されたことは民主主義と、市民を代表し守るべきという最高裁の存在意義に真っ向から反します。アメリカ人の大多数(60%)はロー対ウェイド判決を支持していました。またアメリカ人の70%が、妊娠を終わらせることは、女性・妊娠している人と医師の決断によると考えていたからです。 エリザベス・シュラクターIPPFアドボカシー部長兼IPPF米国事務所長のコメント 「最高裁の決定は後退であるだけでなく、中絶ケアが提供されるべきだと考える多くのアメリカ人の意向とかけ離れています。中絶ケアを医療として必要な人に届ける流れが世界中で広がっているため、世界の流れにも反しています」 「全米で保障されていた憲法上の中絶の権利を否定し、それぞれの州に判断を任せたことで、多くの州では、エルサルバドル、ニカラグア、ポーランドと同等の、非常に制限された、極端で命を危険にさらすような中絶ケアしか提供できなくなります」 「これは米国内の反中絶運動だけの問題ではありません。反女性、反ジェンダー平等、反LGBTQI+を掲げる保守派、宗教グループ、白人至上主義者などが共謀して闇の資金と非民主的な手段を使い、人権としてのヘルスケア、平等、からだの自己決定権、そして究極には自由を人々から奪おうとするグローバルな動きです」 「長年、保障されてきた権利への攻撃が止まないため、IPPFは、民主主義と人々の自由がこれらの過激派に攻撃されたり、影響されたりしないよう、世界中の政府に呼びかけています」 加盟協会であるIPPF米国(PPFA)は今後も合法的に提供できる地域で、中絶薬のオンライン処方を含むSRHRサービスを必要とするすべての人々に提供し続けていきます。 IPPFとPPFAは米国と世界中の人々の権利を守るために協力し、24時間活動しています。女性と妊娠している人々が妊娠継続や出産を強制されないよう、過激派と正面から闘い続けます。 合法で安全でどこでも受けられる中絶を守りたいと思われた方は、ぜひIPPFかPPFAに寄付をしてください。 メディアからのお問合せ:カルメン・アイヴィー宛までお願いします。メールアドレス:kivey@ippf.org または media@ippf.org 国際家族計画連盟(IPPF)について 国際家族計画連盟(IPPF)は世界のすべての人のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)を推進するために活動する世界最大級の国際NGOで、サービス提供と啓発を行っています。 過去70年にわたり、IPPFは123の加盟協会(MA)と23の連携パートナー団体を通じて質の高いセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)ケアを提供し、セクシュアル・ライツの推進を、特にインターセクショナルで多様なニーズを持ちながらケアを得られない人々に提供しています。MAとパートナー団体はそれぞれの地域に根ざした独立した組織で、ローカルなニーズに合う専門知識と状況に沿った支援とケアを提供しています。 IPPFは人々が自分の性の健康とからだについて必要な情報を得た上で選択ができるよう、SRHに関する情報を広く提供する世界を目指して啓発活動をしています。セクシュアル・リプロダクティブ・ライツの実現のために立ち上がり、闘うNGOであり、からだの自己決定権と自由という基本的人権を否定する動きに立ち向かいます。IPPFはいかなる状況においても、人権、尊重、尊厳に基づいたケアを提供します。

ロー対ウェイド判決とは? よく聞かれる質問にお答えします
ロー対ウェイド判決とは 1973年に米国の最高裁判所が出し(女性が人工妊娠中絶を受ける権利が憲法で保障されるプライバシー権の一部であるとする)、米国全州で中絶が合法化されることになった画期的な判決です。 元々はテキサス在住だったジェーン・ロー(当時の仮名)がテキサス州ダラス郡の地方検事ヘンリー・ウェイドに対して起こした訴訟です。妊娠が分かったローが中絶を受けようとしたら、テキサス州では妊娠した人の命に危険が及ばない限り、中絶できないと知ったことから、訴訟に踏み切りました。 弁護団は、原告のローが州外に移動して中絶を受けることができないこと、さらにテキサス州の法律の文言が曖昧で、合衆国憲法で定められる原告の人権を侵害していることを主張しました。その結果、最高裁判事は7対2でローの主張を認めました。この判例によって、米国全土で妊娠初期の3カ月は人工妊娠中絶が合法となり、妊娠している人が政府の過度な制限を受けずに中絶を選ぶ自由が守られました。 しかし、1992年に、プランドペアレントフッド(全米家族計画連盟:PPFA、米国にあるIPPF加盟協会)対ケーシーの判決で、最高裁はロー対ウェイド判決を見直し、修正しました。女性が中絶を選ぶ権利は憲法上、保障されていることが再確認されたものの、ロー対ウェイド判決の規定を覆し、妊娠初期の3カ月間の中絶を完全に禁止するという、もっと曖昧な「胎児の生存度」による中絶の可否を定めました。 この判決が今、話題になっている理由 ロー対ウェイド判決以来、米国の中絶合法化への挑戦は何度となく起きてきました。その一例が PPFA 対ケーシー裁判です。これらの2件は連邦法のレベルで争われましたが、州法のレベルでは中絶へのアクセスが途方もなく難しくなった州があります。テキサス、ジョージア、ルイジアナ州などです。メリーランド、コネチカット、カリフォルニア州などでは、ロー対ウェイド判決に基づかない方法で中絶の権利を守ろうとしています。 2022年5月現在、もっとも注目されているのは、ドッブズ対ジャクソン・ウィメンズ・ヘルス・オーガナイゼーションの判決です。2018年にミシシッピ州で成立した妊娠15週を過ぎた場合の中絶を禁止するという州法が違憲であると訴えた裁判です。 現在、ミシシッピ州で中絶クリニックとして認可を受けているのはジャクソン・ウィメンズ・ヘルス・オーガナイゼーションだけです。最高裁がこのクリニックの活動を認めない判決を出せば、ロー対ウェイド判決が覆ることになります。26の州で、最高裁判決を受けて州内の中絶を厳格に制限するか完全に禁止する「トリガー法」を準備しています。そうなれば、生殖可能年齢になる3,600万人超が中絶を受けられなくなります。特に、低所得者と有色人種が不利益を被るでしょう。 ドッブズ対ジャクソン・ウィメンズ・ヘルス・オーガナイゼーションの最高裁判決は2022年6月末か7月初旬に出ると思われていました。しかし5月3日に、判決に参加している最高裁判事サミュエル・アリートによる意見書の草稿がリークされました。これには、ロー対ウェイド判決が覆されると書かれていました。そうなれば、合衆国憲法のレベルで中絶の権利が守られなくなり、各州の権限で中絶の禁止や厳格な制限ができるようになります(各州の中絶法についてはこちら)。 生殖の自由にとって予断を許さない状況ですが、報道されたのはあくまでも判事一人の意見書であり、法律上の決定ではありません。記事の執筆時にはまだ判決は出ておらず、米国において中絶は合法のままです(近くのクリニックと自宅での安全な中絶についての情報はこちら)。 ロー対ウェイド判決が覆された場合、何が起きるか 中絶を禁止しても中絶の数は減りません。中絶を必要とする人々は、何とかして手段を探します。多くは安全でない、効果のない中絶法に頼ります。その結果、深刻な被害を受けることもあれば、死に至る場合もあります。 ロー対ウェイド判決が覆れば、女性と少女たちの解放、からだの自己決定権、自由が否定されます。この判決こそが米国が誇る価値観ではなかったでしょうか。判決が覆れば、何十年もの間、何百万という人々が被害を受けます。 ロー対ウェイド判決は米国の法律問題ですが、その影響は世界中に及ぶことでしょう。女性と生殖の自由に反対する世界中の運動をあおり、女性と少女たちが望まない妊娠を強制されることにつながります。だからこそ、ロー対ウェイド判決が守られることは、米国だけでなく、私たち世界中の人々にとって重要になります。 判決を覆させないためにできること 最高裁にはまだ、正しい判断をする時間があります。人間の尊厳、解放、自由に基づいてすべての市民が安全で合法な中絶ケアを受けられるようにできます。ジャクソン・ウィメンズ・ヘルス・オーガナイゼーションを支持することで、合法で安全にアクセスできる中絶を守ることを、IPPFはすべての最高裁判事に求めます。 読者へのお願い:あなたのお気持ちを、米国各地にある中絶基金に寄付として表明してください。PPFAへの寄付は、米国市民(ロー対ウェイド判決を支持する多数の市民)の声を広める活動を助け、命を守るケアを提供するPPFAクリニックの活動継続の力になります。 IPPFは、すべての女性の意図に反するか、あるいは、同意に基づかない妊娠を強制されないよう、最善を尽くします。最新情報はTwitter、Instagram、Facebookでご確認ください。また可能であればご寄付による支援をお待ちしています。 寄付が難しい場合:米国のSRHR団体の活動について知ることができます。またこの人権問題が風化しないよう、近くで行われる抗議活動に参加するのもよいでしょう。対面でもオンラインでも、友人、家族、それ以外のつながりでこの話題を取り上げることもできます。どのような形であれ、あなたの支援が必要です。 PHOTO: 中絶の権利を求める抗議活動の様子。米国ワシントンDCにて。Photo by Gayatri Malhotra, Unsplash

ロー対ウェイド判決に対する米最高裁の意見書の草稿に対するIPPFの見解
米国で女性が人工妊娠中絶を受ける権利を認めた1973年のロー対ウェイド判決を覆す米最高裁の意見書の草稿について、国際家族計画連盟(IPPF)のDr アルバロ・ベルメホは次のように述べました。 「報道が真実であれば、最高裁判所は落ちる所まで落ちました。ロー対ウェイド判決を覆す方向に進むことは、何百万もの人々の解放、からだの自己決定権、自由を奪うことです。1973年の判決こそが米国が誇る価値観ではありませんか」 「これが本当に決定されれば、世界中で女性の生殖の自由を否定しようとする保守過激派を後押しすることになります。何百万という命が今後、何年にもわたって犠牲になることは疑いようがありません」 「最高裁にはまだ、正しい判断をする余地があります。ロー対ウェイド判決を支持すればよいのです。IPPFはできる限りの手段を講じて人々が安全に妊娠を中断するための支援をします」 メディアからのお問合せ先: Karmen Ivey kivey@ippf.org もしくは media@ippf.org 国際家族計画連盟について 国際家族計画連盟(IPPF)はすべての人のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)を推進するために活動する最大級の国際NGOで、世界中でサービス提供と啓発を行っています。 70年もの間、IPPFは118の加盟協会(MA)と15のパートナー団体を通じて質の高いセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)医療ケアを提供し、セクシュアル・ライツの推進を、特にインターセクショナルで多様なニーズを持ちながらケアを得られない人々に提供しています。MAとパートナー団体はそれぞれの地域に根ざした独立組織で、ローカルなニーズに合う専門知識と文脈に沿った支援とケアを提供しています。 IPPFは人々が自分の性の健康とからだについて必要な情報を得た上で選択ができるよう、SRHに関する情報を広く提供する世界を目指して啓発活動をしています。セクシュアル・リプロダクティブ・ライツの実現のために立ち上がり、闘うNGOであり、からだの自己決定権と自由という基本的人権を否定する動きに立ち向かいます。IPPFは何があったとしても、人権、尊重、尊厳に基づいたケアを提供します。 PHOTO: 中絶の権利を求める抗議活動の様子。米国ワシントンDCにて。Photo by Gayatri Malhotra, Unsplash

女性の権利の勝利:韓国で刑法の「中絶禁止規定」廃止
国際家族計画連盟(IPPF)は、2021年1月1日から韓国で人工妊娠中絶が非犯罪化されたことを歓迎します。中絶を受けたい人は今後、法的に禁止されることなく、中絶ケアを受けられます。1953年から2020年までの間、韓国では多くの場合、中絶は非合法でした。 2019年4月11日、憲法裁判所は刑法にある中絶の罰則規定を「憲法不合致」だと宣告し、2020年末までの改定を命じました。2020年10月に改定案が提出されましたが、2020年12月31日の期限までに成立しませんでした。 保健福祉省は、中絶ケアを保険適用に加えることと、ミフェプリストン(経口妊娠中絶薬)の承認を検討することを発表しました。 IPPF事務局長のDr アルバロ・ベルメホは、次のように発言しています。 「中絶に関してもっとも厳格な法律がある国々で今、中絶ケアが人権として認められつつあります。韓国で中絶が犯罪でなくなったことは、女性の権利実現への第一歩となりました。しかし、我々の仕事はここで終わることはありません。『良心的な拒否』によって中絶ケアが制限されてはなりません。IPPFと加盟協会はこれからも、安全で合法な中絶ケアを必要とする人々に届けるため、闘い続けます」 IPPF韓国(KoPHWA)のKyung Ae Cho事務局長は次のように述べました。 「ついにこの日(中絶の非犯罪化)が来たことをうれしく思います。韓国の女性たちによる、長年の努力の結果です。法改正とサービス拡充が喫緊の課題です。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を拡大し、すべての女性にリプロダクティブ・ヘルス(RH)ケアを平等に届けるようにしなくてはなりません。KoPHWAはこれからも、韓国に住む女性に適した中絶ケアについて、人権に基づく正確な情報と、カウンセリングを提供し、世界中の女性たちのセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)を実現できるように尽力して参ります」

COVID-19でも中絶ケアを提供するための革新的アプローチ
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大する中、世界各地で女性が様々な理由により安全な人工妊娠中絶ケアを受けられずにいます。中絶ケアなどセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)の優先順位が低下し、COVID-19対応で保健システムが逼迫し、移動の制限がかかって医療機関に行くことを恐れるという状況で、ますます安全な中絶を受けることが難しくなっています。 この状況に適応し、女性が必要なケアを受けられるようにするため、COVID-19をきっかけとしてIPPF加盟協会(MA)は革新を進めています。安全な中絶に関する情報とケアを女性に届ける方法を新しく編み出し、女性の選択とケアの質を第一に活動を続けています。 こちらの文書(英語)では、COVID-19が流行する中でも、質の高い中絶ケアを受けるために考え出された革新的なアプローチを紹介しています。

新型コロナウイルスが人工妊娠中絶へのアクセスに与える影響
COVID-19と呼ばれる新型コロナウイルス感染症の流行が159カ国で確認され、世界保健機関(WHO)によってグローバルなパンデミックが宣言されました。COVID-19によって何千人もの(訳注:2020年3月20日時点。5月15日現在で30万人以上)人々が亡くなり、世界規模で保健システムと経済に影響を与え続けています。必ず影響を受ける医療課題として、安全な中絶が考えられます。 世界のすべての国で毎日、人工妊娠中絶が実施されています。すべての意図しない妊娠の半数以上が、中絶によって終わります。WHOの推定では、世界中で年間5600万件の中絶が行われています。 新型コロナウイルスの感染拡大によって自主隔離が必要な地域に住む人に、しばしば、避妊法を確実に入手する手段がないために安全ではない性行為をせざるを得ず、結果として意図しない妊娠の数が増える、という事態が起こることが想定できます。またCOVID-19危機下では、人々が密接して過ごさなければならないために、ドメスティック・バイオレンス(DV)とレイプが増える可能性もあります。この場合にも強制された妊娠が増え、中絶ケアのニーズが高まるでしょう。先が見えない状況の中、パンデミックによって収入がなくなる、その他の健康問題があるなど、妊娠を継続するという選択肢に影響する問題が出てくる場合もあるでしょう。人工妊娠中絶を必要とする人々が増える可能性がある今、どのように安全に受けられるようにできるでしょうか。 パンデミックが人々のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)に及ぼしうる影響について、グットマッハー研究所の発表したわかりやすい概要があります。この概要では薬剤の不足(避妊薬だけでなく中絶薬も)を指摘しており、その原因としてグローバルなサプライチェーンの混乱(薬品の多くが中国から供給されているため)があります。資金と医療従事者がCOVID-19対応に割かれてしまうことも、感染がもっとも拡大する国々で起こっています。これが医療サービスを逼迫させ、中絶を受けるまでの時間がかかる要因になり得ます。安全な人工妊娠中絶行動基金(Safe Abortion Action Fund、SAAF)が支援するパートナー、ジョージアのRPRVからの報告では(ジョージアでは法的に中絶は可能だが強いスティグマ(汚名)がある)、イタリアから帰国した医療サービス提供者が自主隔離をしたために中絶を受けるまでの期間が延びた例があるそうです。 中絶が法律で規制されている国の多くでは、他の市や国に移動して安全な中絶を受けるか、インターネットか遠隔地の薬局から通販で中絶薬を購入する選択肢しかないことがあります。このような手段ももちろん、隔離、移動制限、国境封鎖などによって影響を受けます。 欧州の「国境なき中絶(Abortion Without Borders)」という組織の連絡協議会の一部で、ポーランドで中絶を受けたい人々をサポートする、中絶サポートネットワーク(ASN)という団体があります。ポーランドの中絶法は欧州の中でもっとも厳格であるため、安全なケアを求める人はポーランドの外へ行くか、オンラインで中絶ピルを探します。ASNは懸念する気持ちを込めて、「ポーランド政府はポーランド発着の飛行機と列車の便をすべてキャンセルした」と報告しました。ポーランド在住で安全な中絶を受けるための選択肢として、多くの人が国外から中絶薬を郵送してもらっていましたが、国際郵便も止まってしまいました。 SAAFは中絶への援助を行うグローバルな基金ですが、支援するプロジェクトに前述のような変化による影響が見え始めてきました。実際の中絶サービスの提供、医薬品と資材の入手、さらには教育、啓発活動、スティグマ退治などの重要な仕事にも影響しています。公共での集まりが禁止されたことを多くの参加組織が報告しており、COVID-19に比べて緊急性の低い中絶について行う予定だった保健大臣との啓発会合なども中止される公算が高いでしょう。ジブラルタルで予定されていた中絶法改正に関する国民投票が延期され、アルゼンチンのパートナー団体、アルゼンチンの中絶法の拡充を求める活動を止めました。この法律が可決されれば、救われる命が増える可能性の高いものでした。 「ステイセーフ(安全に過ごす)」を続けるため、レジリエンス(回復力)とコミュニティ支援への献身を発揮している組織もあります。ケニアのTICAHは、ロックダウン(都市封鎖)下でもアーティストと活動するためのオンラインキャンペーンを始めました。TICAHの「ジェーンおばさん」ホットラインは、必要な人にカウンセリングと情報を提供しています。ウガンダでは確認された感染例はありませんが(訳注:2020年3月20日時点。5月14日には感染者数126名、死亡者数0)、VODAはスタッフとボランティアへの安全な活動についての衛生講習を行い、女性のリプロダクティブ・ヘルスニーズの将来的な変化に対応できるよう、学校と教会に助言し、支援しています。 これからできることは何でしょうか。最終的にウイルスがどこまで影響を拡大するのかわかりませんが、多くの国々に存在する制限の高い中絶法の問題が浮き上がっています。避妊法、安全な中絶へのアクセスを妨げるすべての法律、政策、慣習をなくさなければならないことを思い起こさせます。このような法律、政策、慣習はもっとも脆弱な人々のグループに深刻な影響をもたらします。 今の時期、オンライン診療の選択肢の検討が必要だと指摘されていますが、中絶ケアに関しては有効であることがわかっています。世界保健機関(WHO)はまた、医薬品を使った中絶を提供できる機関の拡大が重要だと発言し、「(中絶薬を用いた中絶は)個人が保健医療機関の外でいくつかのプロセスを自己管理することも可能である」としています。多くの組織や活動グループが、中絶を必要とする人々が安全に医薬品を入手できるよう支援を行っており、私たちはASN 、Fondo Mariaなどの中絶を支援する基金に寄付をすることで、この重要な仕事が続くように支援できます。 中絶支援に特化したグローバルファンドとして、パートナー団体と協働し、もっともニーズが高い人々に支援を届けられるようにし、どのような変化が起ころうとも対応できる柔軟性を発揮していきます。 女性とその他の人々は、常に人工妊娠中絶を必要としてきており、これからも必要とします。世界中のどこであれ、受ける人が誰であれ、中絶が安全に提供され、受ける人の尊厳が守られるよう、私たちはこの重要な任務を続けるための資金拠出を続けていきます。 文責:ローラ・ハーレー、安全な人工妊娠中絶行動基金(Safe Abortion Action Fund、SAAF)プログラムアドバイザー

スタンフォード大学論文―アフリカにおいてグローバル・ギャグ・ルールが人工妊娠中絶に及ぼす影響―へのIPPFコメント
米国スタンフォード大学の研究グループの論文で、グローバル・ギャグ・ルール(GGR、メキシコシティ政策)とサハラ以南のアフリカにおける人工妊娠中絶率との関連が明らかになりました。 非常に重要なことがわかってきました。国際家族計画連盟(IPPF)では人々に必須の保健医療サービスを提供してきた経験から、これまでのGGR実施時に人工妊娠中絶への影響に気づいていましたが、論文(英語)ではセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)分野で活動するNGOが訴えてきたことが書かれています。総合的なケアを提供する組織の資金を削減すると、避妊法へのアクセスが直接的に、そして急激に悪化することです。 GGRは女性が必要とするケアを受けられなくし、市民社会組織に沈黙を強いて、女性と保健医療サービス提供者との関係を分断します。避妊法を入手できなくなった結果、意図しない妊娠が増え、女性自身にとって困難な状況下で妊娠を継続しなければならなくなります。安全で合法な中絶が規制されているので、妊産婦死亡の増加は避けられません。 この論文にある事実を受けとめ、米国政府がGGRの実施を見直すよう、IPPFは期待します。GGRを廃止し、女性と少女が必要とする保健医療サービスが世界中で受けられるようにしなければなりません。 すべての女性と少女がセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスケア(SRHケア)をいつでも、どこでも受けられる世界を作るため、IPPFはさらに努力しなければなりません。IPPFは避妊法のサービスと中絶のケアをやめることは決してありません。SRHRに関連する幅広い保健医療サービス、コミュニティの教育活動、市町村から国、地域と国際レベルにわたる啓発活動を通じて、すべての人がSRHRを実現できる世界を目指します。グローバルにSRHRへの反動が強い今だからこそ、IPPFは立ち向かっていきます。

人工妊娠中絶 の合法化法案 アルゼンチン上院で否決される
アルゼンチン上院で行われた採決で、妊娠14週までの中絶を合法化する法案が僅差で否決されました。結果は、賛成が31票、反対が38票、留保が2、それに欠席が1でした。 国際家族計画連盟西半球地域(IPPF/WHR)事務局長兼CEOのジゼール・カリノは、次の声明を発表しました。 「8月9日、アルゼンチン上院は女性たちの期待を裏切り、現行法維持という採決をしました。女性たちは絶望を味わい、強制された妊娠と本来であれば予防できる妊産婦の死亡がなくならない未来を過ごさなければ なりません。女性への共感を欠いた本採決は、これまでに女性たちが生きてきた経験、エビデンスに基づいて打ち出されてきた公衆衛生政策、様々な国際的な合意の数々を否定するものです。アルゼンチン上院の議員たちには共感が得られないことが明確となっても、私たちは諦めません。自らの意思で組織的に運動に参加した何万という女性たちが、この法案の可決を訴えてきました。このような女性たちの動きが南米各地の活動家を勇気づけ、女性たちは経験を共有し始め、人前では話しにくい中絶にまつわる汚名(スティグマ)を取り除くべく、声を上げ始めています。IPPFは断固たる決意と連帯 の意思をもってこの勇気ある女性たちを支え、強制された妊娠が過去のものとなり、すべての女性が対等な存在として扱われるその日まで、闘い続けます。 アルゼンチンの現行法では、女性が以下の状況にある時は、法律上は中絶を受けることができます。それは、妊娠している女性が生命の危機にある場合か、レイプによる妊娠の場合です。しかし、実際には中絶を受けることが非常に難しく、経済的、社会的な資源に乏しい女性は、都市部に住む上流階級の女性よりも中絶が受けにくいという現実があります。 Dr アルバロ・ベルメホIPPF事務局長は次のように述べました。 「制限のある法律によって害を被る不運な 女性たちは、中絶が合法化され、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスケアの一部として認められない限り、これからも自分の健康と生命を犠牲にしていかなければなりません。IPPFは、女性の権利のために勇敢に闘ってきた現地のパートナー団体、市民社会組織、そしてすべての活動家を支持します。これからもアルゼンチンで志を同じくするパートナー団体や活動家と緊密に連携しながら、IPPFはすべての人のセクシュアル・リプロダクティブ・ライツの実現を目指します」

アイルランドの「中絶合法化」の決断は共感力の勝利
国際家族計画連盟(IPPF)は、アイルランドの人々が憲法修正第8条を廃止する決断を国民投票によって示したことを、心より歓迎します。 Dr アルバロ・ベルメホIPPF事務局長は次のようにコメントしました。「変化への大きな一歩を踏み出す投票結果です。女性が必要とする場合、妊娠12週までの中絶ができるよう、アイルランド議会が法改正を進めていきます。世界中の多くの国々と同じように、女性が安全で合法的な中絶ケアを、必要に応じて受けられるようになります」 キャロライン・ヒクソンIPPF欧州ネットワーク地域事務局長も次のように述べました。「私はアイルランド人女性として、30年以上にわたり憲法修正第8条が数多くの女性を身体的にも、感情面でも、心理的にも傷つけてきたことを知っています。廃止という投票結果によって、アイルランドに住む女性たちに共感し、いたわりを示す環境ができるでしょう。中絶を受けるために国外まで行くことも、安全でなく、合法でもない中絶ピルをインターネットで購入して飲む必要もありません。これからは女性も少女も、心身を脅かす ような妊娠をした場合に医師と身近な人々の支援を受けながら自分個人の問題として決断することができます。非常に脆弱な状況でどのような決断をしても、女性たちは自分の国を離れることなく、適切なケアを受けられるようになります」 Dr ベルメホはさらに言いました。「アイルランド国民の決断は、欧州と世界への強いメッセージとなりました。誰かを思いやり、共感することで専制主義と強制を克服できる。この決定が女性たち、そして世界中でリプロダクティブ・ヘルスに関する選択を強制され、それと闘っている人々に勇気を与えることを願います。グローバル・ギャグ・ルールによってセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスケアの提供が壊滅的になっている国々にとってはなおさらです。世界中どこであっても、女性に出産を強制する制度を廃止し、安全で、合法で、いつでも受けられる中絶ケアを提供しなければなりません。今日のアイルランドの決定は、よい変化が起こることを世界に示しました」

安全な人工妊娠中絶行動基金
オペレーション・リサーチやサービス・デリバリー、そしてアドボカシー(政策提言)を通じて、安全な人工妊娠中絶行動基金(Safe Abortion Action Fund、SAAF)は安全でない人工妊娠中絶を防止し、合併症に苦しむ多くの女性や少女を支援します。 合併症は、安全な人工妊娠中絶サービスにアクセスできないことによるもので、毎年推計6万7,000人が命を落とす原因となっています。 この緊急課題であるセクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス(sexual and reproductive health)に取り組むため、援助国政府は、世界で最貧国のNGOに対して柔軟な資金援助をすることで最も効果的な成果を得ることができると同意しました。NGOはコミュニティの女性のニーズを理解する最良の場所で活動します。安全な人工妊娠中絶行動基金は2006年にデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、スイス、そして英国政府により設立され、IPPFは援助国に代わって基金を運営管理するよう依頼されました。 最初のフェーズでは50のプロジェクトおよび医療従事者5,500人と支持者7,500人に対する研修、30万人の女性に対する直接のサービス提供を支援しました。 結果として、多くの政府が新たに支援を行い、2011年に35の新規プロジェクトが開始されました。SAAFは援助機関、支持者、そして国際機関の代表から構成される統治機構を有します。それらの資金と経験は、IPPFの専門性と管理運営力と調和し、救命および政策変更に関する重要な草の根活動を支援します。 最新の基金情報についてはSAAFをご確認ください。
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