IPPFパレスチナ(PFPPA)アマル・アワダッラー事務局長による寄稿
ガザへの空爆が中断しても、平和が訪れるわけではありません。張り詰めた緊迫感の中、人びとは家族と元の生活の残骸のようなものに戻らなければならないという、極めて厳しい現実があります。破壊の爪痕は大きく、パレスチナ人の死者は4万8000人以上、負傷者は11万人以上にのぼり、ガザ地区の建築物の69%が破損または破壊されました。医療施設への攻撃は617件にのぼり、医療インフラも崩壊しました。
2023年10月8日にIPPFパレスチナの唯一のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)センターが爆撃されたときのことを私は生涯忘れないでしょう。ようやく北ガザのセンターに帰還したスタッフが、瓦礫に埋もれた机や備品を目にしたときの映像には、衝撃を受けました。と同時に、復興の作業が膨大になることを思い知らされました。そして今、パレスチナの人びとは、強制移動と占領というさらなる問題に直面しています。
国際社会は、重大な局面を迎えています。ここ数年間、私は何度も繰り返される暴力と破壊を目にしてきました。ガザの女性や女児は、移動中の爆撃を恐れることなくサービスにアクセスできることが必要です。しかし、この女性たちの計り知れない苦しみに、世界は十分に対応できるのでしょうか。

爆撃が続いた恐ろしい15カ月間、私はガザで活動するチームを率いてきました。さまざまな大きな問題に直面する中、前線で活動する42人のスタッフは、5万9,000人に、235,000件以上の必要不可欠なSRHサービスを提供しました。現在の薄氷の停戦中も、サービスへのアクセスは非常に限られています。イスラエル軍が物流を統制しているため、復興作業が妨げられ、必要としている人びとに重要な物資や日用品が届いていません。ガザおよびヨルダン川西岸にいるIPPFパレスチナのチームは、検問所通過の困難、、遅延への対応に追われ、過酷な状況で作業する精神的な重圧を常に受けています。これらの障壁は単なる物流の問題ではなく、本質的には政治的なものです。

多くの医療施設は瓦礫に埋もれ、大切な家族が埋まったままの人もいます。このような状況でSRHヘルスケアにアクセスする難しさを考えてみてください。避妊具(薬)、性暴力被害支援、妊産婦ケアを必要とする女性にとって、その心理的な負担は計り知れません。また、IPPFパレスチナ、のメンバーにとっても、医療従事者の死は、大きな衝撃です。今年初めには、チームのメンバーだった、タバト・サリム医師がイスラエル軍の空爆で亡くなりました(記事ページリンク)。
チームのメンバーも、それぞれ他のパレスチナ人と同様に深い苦しみを抱えています。大切な人を失くし、家を失い、安全と名のつくものはすべて失っています。多くはテントやシェルターで生活し、水、生理用品、食料や医薬品を入手するのに苦労しています。こうして、自身が計り知れない喪失感を抱えていても、気力を振り絞って毎日立ち上がり、人びとにSRHヘルスケアを提供しています。最悪の状況で何が彼らをそうさせるのか想像もつきません。しかし、多くの命が失われ、次々に襲いかかる苦難に耐えた日々は、爆撃が止んだあとも、深い傷やトラウマとなって何世代にも渡り人びとの心に残ることでしょう。
各国の軍事予算が増加するのに対して、人道支援は先細りになっています。非常に由々しき事態です。米国が(エジプトとイスラエル以外)ほぼすべての対外援助を凍結したため、これまで以上に他国の支援に頼らざるを得ません。イスラエルへの軍事支援やパレスチナ人への強制移動通達、そして15カ月間の爆撃への米政府の関与を踏まえれば、支援削減はとりわけ憂慮すべき事態です。
援助は非常に重要ですが、一方的な施しではなく、正義への道筋であるべきです。将来ジェノサイド裁判が行われる可能性が高いことを考えれば、ガザに対しては賠償と説明責任が重要です。個々に援助を受けることは必要ですが、現実的には難しい面もあります。パレスチナの自治能力の欠如と占領の現状を浮き彫りにすることもあるからです。支援は即時のニーズに対応するだけではなく、パレスチナの尊厳の回復、主体性の尊重、長期的な復興につながるものでなくてはなりません。また、大切なのは地域コミュニティの声に耳を傾けることです。パレスチナで最も紛争の影響を受けた人びとが本当に必要としているサービスを私たちが提供できているか、問い直すことが必要です。

IPPFパレスチナには、最も過酷な状況でも地域に根ざした必要不可欠なSRHサービスを提供してきた実績があります。さらなる資金で、より多くのことができます。センターの再建やサービスの拡大は、SGBV(性とジェンダーに基づく暴力)サバイバーを含む女性や女児が必要とする包括的ヘルスケアへのアクセスを確実にすることの、ほんの始まりに過ぎません。
現在ガザは、復興に向けて新たな危機に直面しています。ネタニヤフ首相は、「新しいガザ」が必要だとし、そのためのトランプ政権によるガザ地区占領とパレスチナ住民の強制移動通達を、繰り返し公的に支持しています。「新しいガザ」が必要であることに異論はありません。ただし、住民の強制移動と他国の支配によるものであってはいけません。パレスチナ人の声を反映し、平和と自由を享受でき、自治と機会が与えられている新たなガザが必要です。ガザは、パレスチナ人のものです。
世界は注視するだけでなく、行動すべき時に来ました。。思い切った公平で公正な行動を実行に移すときです。パレスチナの人びとには正義が必要です。

ガザの人道的状況と支援方法については、こちらのパンフレットをご覧ください。

when
country
パレスチナ
region
アラブ世界
Subject
紛争, 人道支援
Related Member Association
Palestinian Family Planning and Protection Association (PFPPA)