- - -
top

Blog post JP

アメリカ共和党政権「三重の脅威」がもたらす世界的な影響

IPPFは、トランプ氏の米国大統領としての再登板が、共和党が過半数を占める国会を後ろ盾とすることの深刻な影響ーすなわち米国と世界の人々の健康と人権への脅威ーを懸念しています。

IPPFは、トランプ氏の米国大統領としての再登板が、共和党が過半数を占める国会を後ろ盾とすることの深刻な影響ーすなわち米国と世界の人々の健康と人権への脅威ーを懸念しています。(次期政権への関与が取り沙汰されている)ヘリテージ財団(Heritage Foundation)が作成したプロジェクト2025アジェンダに含まれる、リプロダクティブ・ライツやジェンダー、セクシュアリティのなぎ倒しの概要は、世界中の女性、LGBTQI+の人々や周縁化されたコミュニティがこれまで苦労して勝ち取ってきた権利の弱体化、後退につながるリスクがあります。

今回の選挙では、トランプ氏が大統領の座を獲得すると同時に、共和党が国会の上院下院の双方で過半数を占める勝利という共和党旋風「レッド・スイープ(Red sweep)」が起こりました。この言うなれば「三重の脅威(triple threat)」体制は、グローバルヘルス、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)と、世界の人権の行末に暗雲をもたらし、従来の民主主義のあり方を変える可能性さえあります。

トランプ氏が初めて大統領に選出された2016年に比べ、次の第二次政権では、トランプ氏の有害で過激な政策への反対意見はほとんどでないでしょう。前回のトランプ政権(第一次政権)で中枢にいた穏健派の多くは、極右のMAGA(Make America Great Again―米国を再び偉大にする―)運動支持者と入れ替わっています。同時に、共和党は2016年以降、人工妊娠中絶と避妊に関する立場を変え、現在ではトランプ氏の見解により近いものとなっています。

さらに、第一次トランプ政権下でニール・ゴーサッチ、ブレット・カバノー、エイミー・コニー・バレット(Neil Gorsuch, Brett Kavanaugh, and Amy Coney Barrett)氏らが任命されたことで、最高裁で保守派が過半数となりました。これは既に気配があるように、結果として、三権分立による抑制と均衡のシステムの維持や大統領が法律を遵守するよう監視する能力という国のシステムが抜本的に変換されることを意味します。これら全てが一時にある状態は、これまでに前例がありません。議会で民主党の力が弱まっているので、トランプ政権はその立法・政策アジェンダを強硬に推し進めていくでしょう。

米国内では、トランプ次期大統領は、議会の共和党多数派の後押しを受け、連邦政府による中絶禁止措置の制定に向けた取り組みを拡大し、ギャグ・ルール(口封じルール)を再導入するとみられています。この米国内ギャグルールは、連邦政府が資金を提供する「Title X家族計画プログラム(National Title X Family Planning Program)」において、中絶を希望する人のリファラル(照会)を禁止し、中絶ケアを提供するために個人や団体が満たすべき要件を広範に規定するものです。IPPFの米国の加盟協会(MA)であるIPPFアメリカ(PPFA)も今後さらなる攻撃の的となり、トランプ政権が、避妊薬(具)、性感染症ケア、がん検診の提供で、メディケイド(Medicaid)やその他の公的資金による診療報酬の対象外とする(払戻金を受け取れなくなる)よう、米国の各州にはたらきかける可能性があります。このような困難の中でも、PPFAとその国際活動を担うPlanned Parenthood Globalは、SRHRを擁護・拡大するという使命を持ち続け、この有害なアジェンダに対抗すべくあらゆる手段を講じていきます。

世界では、セクシュアル・リプロダクティブ・ライツ(SRH: 性と生殖に関する権利)が法制面でも政策面でも、ますます規制される傾向にありますが、この動きはトランプ氏と支援母体が緊密に結びついているグローバルな反権利運動の勢力拡大に後押しされています。こうした中、トランプ氏は選挙で勝利しました。この運動は、保守系のシンクタンクやロビイスト、権威主義的で保守的な国の政府など多様なグループによって構成され、国内・国際的な機会を通じて、非常に緻密な連携と豊富な資金によって、人権を蔑ろにし、長年の進歩を覆そうとしています。

1.jpg

このような背景の下、IPPFは2025年に以下のような世界的影響を予測しています:

 

メキシコシティー政策/GGRは再導入され、グローバル・ヘルス以外の分野にも拡大適用される。

グローバル・ギャグ・ルール(GGR)は、1984年以来、共和党が政権につく度に導入され、民主党政権によって撤回されてきました。当初のGGRは、米国のグローバルヘルス支援資金を受け取っている非米国のNGOは、たとえ中絶が合法な場合でも、またその活動資金源がアメリカ以外であっても、人工妊娠中絶手術の実施、中絶に関して医療従事者が患者に行うカウンセリングや医療機関の紹介(リファラル)、安全な中絶を可能にするよう求める政策提言活動を行うことを禁止するものでした。直近のGGR再導入時(2017-2021年)には、世界中で推定10万人の妊産婦と子どもの死亡、約36万件の新たなHIV感染が発生し、深刻な結果を招きました

米国は世界最大の政府開発援助(ODA)拠出国であり、2024年度だけで630億米ドルを拠出し、そのうち保健分野は123億米ドル、人道支援分野は164億米ドルを180カ国以上に提供しています。しかし、プロジェクト2025の政策が採用、制定された場合、GGRも拡大適用され、状況が一変するでしょう。

GGRの再導入の影響は非米国NGOに留まらず、全米のNGO、国連機関、世界ワクチン予防接種同盟(GAVI)、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria)、グローバル・ファイナンシング・ファシリティ(Global Financing Facility: GFF)などの国際機関にも及びます。プロジェクト2025の「リーダーシップのための政策(Mandate for Leadership)」が次期政権で採用されれば、人道支援やパートナー国政府への二国間援助も影響を受ける可能性があります。共和党が立法と行政両方で多数派を占めているため、GGRが米国連邦法に盛り込まれる可能性が高いことも大いに懸念されます。

GGR再導入により、IPPFは6,100万米ドルの資金を失うと予測しています。突然の資金削減は、IPPFのサービスに依存するコミュニティに深刻な結果をもたらすでしょう。GGRは、資金面だけでなく、ケアの提供、アドボカシー活動、国際的な政策姿勢に波及効果をもたらし、関係組織に恐怖心を植え付け、自己検閲を引き起こします。米国からの資金援助を失い、ドナーとの関係悪化を防ぐためにコンプライアンスを徹底しようと活動を過度に制限したり、パートナー関係を解消する団体が出てくる可能性もあります。負の影響は、組織やコミュニティに留まらず、世界の活動全体に及ぶでしょう。

国連人口基金(UNFPA)と世界保健機関(WHO)への資金援助は、削減されるか打ち切られる公算が高い。

これまで歴代の共和党政権では、UNFPAへの資金提供が打ち切られています。ロナルド・レーガン氏以来、共和党の大統領が米国の対UNFPA拠出を停止し、後の民主党の大統領が復活させるという繰り返しです。WHOに対する米国政府の支援も、トランプ氏とその周辺が常々問題視し、槍玉に上げてきました。トランプ氏の大統領就任は、WHOパンデミック条約や、グローバルヘルスの協力体制を発展させる上で大きな脅威となります。

これらの機関への支援を削減することは、家族計画(FP)、包括的性教育(CSE)、母子保健、HIV/AIDSプログラムなど、世界における長年の活動やサービス提供に多大な影響を与えることは間違いありません。米国からWHOへの2020-21年の資金提供額は7億ドルでした。

バイデン・ハリス政権の下、UNFPAは米国から3,000万米ドル以上のコア拠出金、1億3,000万米ドル以上の人道支援活動資金(UNFPAの人道支援活動資金の約半分を占める)を受け取っています。トランプ政権がUNFPAへの資金拠出を打ち切った場合、UNFPAの運営、特に世界各地の危機的状況下での人道支援活動に大きな影響が出るでしょう。翻って、UNFPAから分配助成金を受け取っている多くのIPPF加盟協会にも影響があります。

米国国際開発庁(USAID)はUNFPAとともに主要なSRH関連物資調達機関であることから、2025年以降、世界的にSRH関連物資の供給に大きな影響が予想されます。SRHサービス提供においてこうした供給による物資に依存している各国IPPF加盟協会にもマイナス要素となるでしょう。

ジュネーブ・コンセンサス宣言(Geneva Consensus Declaration)を国連で推進する動きが活発になり、国際的に合意された人権に関する法や基準の後退が起きる可能性が高い。

IPPFとパートナー団体は、次期トランプ政権が、国連でジュネーブ・コンセンサス宣言を大規模に推進することは間違いないと予測しています。もともとジュネーブ・コンセンサス宣言は、第一次トランプ政権の政府高官で現在はInstitute for Women's Health(IWH)の所長兼CEOであるヴァレリー・ヒューバー(Valerie Huber)氏協力のもと策定されたもので、女性の健康を促進するという名目の下、署名した国の中絶の権利やLGBTQI+の人々の権利を弱体化させる意図が明らかな内容となっています。

これまでのところ、39カ国が署名しており、トランプ氏の大統領選勝利を受けてアルゼンチンも署名する可能性が高いと言われています。トランプ氏は、グローバリストたちの『中絶の国際的な権利』を拒絶し、ジュネーブ・コンセンサス宣言に再加盟する意向を公言しており、反権利勢力はこれを躍進のきっかけと捉えています。プロジェクト2025の構想では、米国のすべての外交政策(他国政府との二国間合意を含む)は、ジュネーブ・コンセンサス宣言における中絶および家族観の原則に基づくことが推奨されています。

トランプ政権はまた、世界銀行、WHO、国連人権理事会を含む主要な多国間交渉の場から撤退し、現在の多国間協力体制をなしくずしにする恐れがあるナショナリスト的、孤立主義的な姿勢をとることが予想されます。

米国は気候変動に関する取り組みから離脱する可能性が高い。

トランプ氏は、パリ気候協定からの脱退を公約しており、米国環境保護庁(EPA)をはじめとするさまざまな既存の気候変動プログラム策定支援活動からも一切手を引く予定です。これは、プロジェクト2025で示された政策を反映したもので、同政策では共和党の次期大統領に対し、対外援助プログラム(主にUSAID 気候戦略 2022-2030)の気候問題対策をすべて撤回するよう求めるとともに、パリ協定を推進するために立ち上げられたUSAIDの事務所の解体、数々のプログラムや活動の廃止、気候変動対策への資金援助を削減し、グローバルサウス諸国に対して化石燃料推進を働きかけることを提案しています。

気候変動、もはや気候危機は、SRHRを含めた多くの健康問題や心理社会的問題のリスクを増大させ、とりわけ女性や女児、周縁化された人々が大きな影響を受けます。トランプ次期政権が2030年までにCO2排出量を半減させるという公約を達成せず、国際的な気候変動対策支援を削減すれば、国や地域社会間に存在する根深い不平等をさらに助長することになるでしょう。

LGBTQI+、特にトランスジェンダーの人々の権利に対する国際的な支援や保護の取り組みを破棄する公算が大きい。

近年、LGBTQI+コミュニティに対する大規模な攻撃が起きています。2023年にはウガンダで、世界でも最も厳しい法のひとつといえる反LGBTQI+法が制定されました。バイデン政権は、外交政策の中でLGBQI+の人権を保護することを約束、単独のLGBTQI+包括的開発政策(Inclusive Development Policy)を発表し、ジェシカ・スターン(Jessica Stern)特使を任命しました。しかし、次期トランプ政権はこうした取り組みを大幅に削減すると見られています。

これまでトランプ氏は、LGBTQI+の人権に対して超保守的な右派の立場をとってきました。第一次政権では、最高裁を含むさまざまな司法制度で反LGBTQI+を表明する判事を任命し、LGBTQI+の人々への差別を禁止する平等法案(Equality Act)の制定に反対し、大統領選挙キャンペーンを通じて反LGBTQI+の主張を展開しました。第二次政権でもプロジェクト2025に盛り込まれた政策案を採用し、このような強硬路線を続けることが予想されます。

プロジェクト2025の政策では、次期米保健福祉省長官(Secretary for the U.S. Department of Health and Human Services、保健福祉省を「生命省(U.S. Department of Life)」と名称変更することを政策として提案)に対し、「バイデン政権時代の、LGBTQ+の権利の平等への注力を覆し……結婚、労働、母性・父性を尊び、伝統的な家族を奨励する」よう求めており、トランスジェンダーのアイデンティティは「ポルノ」と同義であるとも示唆しています。外交政策との関連では、グローバルに宗教関連組織向け資金の増額、政策や対外援助プログラムにおける異性愛を規範とする伝統的な家族構成の促進、LGBTQI+の権利に対する対外援助の終了を次期政権に求めています。

トランプ政権がこれらの提案のいずれかでも制定すれば、世界中のLGBTQI+コミュニティにとって有害な影響があるでしょう。それに伴いLGBTQI+の権利や保護に対する世界的な支援の後退や反故が予想され、反LGBTQI+運動を勢いづかせることにつながりかねません。

米国は、グローバルなHIV対策支援を縮小すると予測される。

トランプ氏の返り咲きが決定したことで、HIV/AIDSプログラムへの支援に対して世界中で懸念が生じています。現在米国は、HIV/AIDSの国際的な活動に対する単独で最大のドナーです。特に世界平等基金(Global Equality Fund)と米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は、2003年の設立以来、50か国に約1,200億米ドルを拠出し、2,500万人以上の命を救っています。

しかし、議会で党派が分裂している状況や、ヘリテージ財団のような超保守主義団体の勢力拡大によって、PEPFARは近年煽りを受けつづけています。第一次トランプ政権時にもプログラム資金の大幅削減が提案されましたが、当時の議会はこれを却下しました。しかし、依然としてPEPFARに対する圧力は強く、組織の再承認の有効期間は、かつては超党派の支持を受けて5年ごとでしたが、2024年ではたった1年に短縮されました。

再承認期間の短期化は、長期計画の策定と戦略的行動を困難にし、世界的なHIV/AIDSの終息に対する米国政府の姿勢を不安視させるものです。PEPFARは2025年に共和党が多数を占める議会で再承認される予定ではありますが、次期トランプ政権は米国の対外援助におけるHIV/AIDSプログラムへの支援を大幅に削減し、PEPFARを解体し、何百万人もの人々の命を救うサービスを停止する可能性があると予想されています。

米国政府の人道支援は全体的に大幅に削減・路線変更される。

バイデン・ハリス政権下では、米国は単独で世界最大の人道支援ドナー国であり、現在、米国の支援は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)への拠出金全体の半分以上(57%)を占めています。米国の人道支援は、危機的状況下におけるSRHへのアクセスを維持するために不可欠です。次期政権では、人道支援政策がトランプ氏のイデオロギーに基づいて再配分される懸念があります。適用範囲が拡大されたGGRの条件を遵守する選ばれた宗教関連団体への支援が優先されることは、第一次トランプ政権時のUSAID副長官マックス・プリモラック(Max Primorac)氏がプロジェクト2025でも述べています。

次期トランプ政権は、外交政策全体で反ジェンダーの方針を進めると予想される。

トランプ次期政権は、米国の外交政策や戦略から、特にジェンダーやセクシュアリティに関する包摂的な言葉を削除することが予想されています。反ジェンダー平等の姿勢は、プロジェクト2025全体を通しても明らかです。同文書では、公的なすべての連邦規定、政府機関の規則、助成金、法律、政府機関の公式ウェブサイトなどから、SOGI(性的指向・性自認)、多様性、公平性、包摂への言及、その他多数の関連用語(ジェンダーに配慮した、多様なジェンダーなど)を「削除」することを約束しています。また、USAIDのウェブサイト、同機関の出版物、政策、助成金などの契約書から、中絶、リプロダクティブ・ヘルス、セクシュアル・リプロダクティブ・ライツ、そして「懸念される」性教育教材への言及箇所を削除することを提案しています。

さらにプロジェクト2025は、次期トランプ政権に対し、「バイデン大統領の2022年のジェンダー政策(Gender Policy)を撤回し、『女性、子ども、家族』に焦点を変更する」ことを要求している。また、USAIDのジェンダー平等・女性エンパワーメント局(Office of Gender Equality and Women’s Empowerment)も伝統的価値観に焦点を切り替えることを求め、名称も女性・子ども・家族局(Office of Women, Children, and Families)に変更することを提案しています。その上、USAIDとその世界各地のミッションで活動する180人のジェンダー・アドバイザーのポストを廃止することも提案されています。

2.jpg

今後4年間、どのような展開があろうと、IPPFは、PPFAをはじめとする加盟協会や、SRHR、LGBTQI+、HIV、女性の権利の擁護運動を展開する世界中のパートナーと連帯し、歩み続けます。

世界的にSRHR、人権、そして民主主義全体に対する脅威が高まる中、取り組みをさらに強化していく必要があります。

不公正があればそれを訴え、次期トランプ政権の外交政策によって影響を受ける人々、周縁化され、排除される人々に対する支援を、IPPFは断固として継続していきます。

3.jpg

 

btn

 

写真クレジット バナー画像 Wara Vargas

1枚目の画像 IPPF/Hannah Maule-ffinch/スーダン

2枚目の画像IPPF/Xaume Olleros

when